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2018年6月12日 更新

土岐麻子『SAFARI』を語る。様変わりする生まれ故郷・東京の“いま”のエネルギーと、そこで生きる私たちの心象風景を託して。

2018年5月30日にNewアルバム『SAFARI』をリリースする“クイーン・オブ・シティポップ”土岐麻子。彼女が本作で本当に描きたかったものとは。曲作り秘話や声の録り方のほか、本作の魅力をじっくり語っていただきました。巻末の読者プレゼント情報もお見逃しなく。

TEXT:藤井美保 PHOTO:小境勝巳
殺伐と広がる世界の中にある光と影、体温、そして少しの憂鬱。土岐麻子のNew アルバム『SAFARI』を聴き、心の奥につっかえているものがやわらかく解きほぐされる気がした。『PINK』に続き再びタッグを組んだトオミヨウの音と土岐の紡ぐ言葉と声は、溶け合ったり反発し合ったり、時折一緒に尖ったり歪んだりしながら、だからこそたまらなく心地よく引っかかってくる。ご本人の語り口も丁寧で美しく、言葉の一つひとつが音楽のように伝わってきた。つい、あれもこれもとマニアックな話まで。描きたかった街、曲作り秘話、声の録り方、音楽に託したいこと、などなど、土岐麻子の魅力の秘密に迫ってきました。
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--- 私自身、土岐さんの取材は今回初ですので、ご挨拶代わりにまず『SAFARI』の感想を述べさせてください。殺伐と広がる世界の中にある光と影、体温、そして少しの憂鬱を感じる作品でした。

土岐 まさに、それがすべてです。うれしいです。

--- その色は、昨年の『PINK』、『HIGHLIGHT-The Very Best of Toki Asako-』に続きサウンド・プロデュースで参加されているトオミヨウさんとの相性でもあるのように思うので、まず、なぜまたトオミさんと組むことになったかを聞かせていただけますか?

土岐 1年ほどに及んだ『PINK』の制作が終わったとき、作品は完成したのになぜか終わった感じがしなかったんです。まだまだ制作の勢いが残っていて、「もっとこういうのも作りたい」と、次の構想がどんどん出てくるような感じでした。トオミさんにそう話したら、やはり同じような感覚だったらしく、「実はもう2曲くらい曲想が浮かんでるんです。機会があればまたやりたいですね」と言ってくださった。その数ヶ月後に『HIGHLIGHT-The Very Best of Toki Asako-』を出すことになったんですけど、いつもベストを出す際には現在進行形として新録も入れるようにしているので、まずそれを、『PINK』から地続きのままトオミさんと一緒に作りたいなと。
--- 今作にも収録されている「FANTASY」と「STRIPE」ですね。

土岐 はい。そして、その勢いのまま、『PINK』の続編という感じで『SAFARI』の制作に突入しました。本当に止まらなかったんです(笑)。なので、アルバムの完成図があってのトオミさんではなくて、「トオミさんとまたゼロから作ったら、どんな化学反応が起きて、どんなものになるんだろう?」と、そこを楽しみに作業をしていった感じですね。

土岐麻子 / 「STRIPE」MV

--- 全曲の作/編曲がトオミさんで、全作詞が土岐さん。トオミさんのメロディやサウンドの魅力をどう感じてますか?

土岐 まず思うのは、いつも新しい気分に忠実な方だなということ。もちろん、新譜の早耳でもあるし、次の音を予想できる方でもあるんですけど、私がすごいなと感じているのは、世間で言うところの流行の最先端に敏感ってところではなくて、トオミさんご自身の中で好きなものがどんどん更新、あるいは熟成されているということなんです。スタンダードなものだったり、ルーツ・ミュージック的なものだったり、音楽的にいろんな引き出しがありつつ、トオミさんご自身が今興味を持っているものや表現したいものが常に新しい。そこをお借りするカタチで一緒に作っていきたいなと思いました。
--- なるほど。

土岐 そして、その更新されていく感じ、常に新しいものが育っている感じが、東京という街の景色を描いていくときに合うなと思ったんです。たとえば、京都やヨーロッパの街だったら、古いものを大事にして、生かして、新しいものを伝統に合わせていこうとしますよね。マクドナルドの看板がえんじ色に塗り替えられたり。でも、東京には、2018年なら2018年の旬のムードがいつも漂ってる。そこにワクワクもするけど、同時に不安や寂しさも感じたりして。

--- たしかにそうですね。

土岐 馴染みの店や好きだった風景がいつのまにかなくなり、せわしなくいつもどこかで工事が行われて、自分の生まれ育った界隈もどんどん変わっていく。でも、そこをひっくるめて面白い街だなとここ何年か思っていて、それが、素直に自分を更新していくトオミさんの姿勢と合っている気がしたんです。実際トオミさんのサウンドには、どこか無機質なところがあり、かつ、冒頭言っていただいたような体温も含んでる。一見対照的なふたつが内在しているという部分も、私が街に感じるものと似ているなと思いました。

--- 土岐さんが、街の中でその対照的なふたつを感じるのは?

土岐 たとえば、大きな交差点や乗り換えのターミナル駅。人がごった返しているけど、自分はその誰のことも知らなくて、もちろん自分を知る人も誰もいない。その中を人とぶつかりそうになりながら歩いていると、ふと孤独を感じたりしますよね。でも、そんなときたまたま夜景が見えて、灯りの一つひとつに、「あ、まだ起きてるんだ」と人の暮らしを感じたりすると、「自分だけじゃないんだ」と心強く思ったりもする。つまり、知らない人が行き交うこの街で、殺伐とした気持ちにもなれば、逆に励まされもしてるわけです。誰も知らないからこそ、この街で何か勝負に出られるというところもある気がしますし。

--- ああ、すごくわかります。

土岐 夢もあれば絶望もある。その両面を内包しているのが東京の街なので、無機質と人肌が共存するトオミさんの音はピッタリだなと。
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--- 土岐さんは声質の魅力もあるので、これまで個人的に、声がサウンドの一部という気持ちよさを強く感じていました。でも、『SAFARI』では、歌唱でも歌詞の面でも、何かもっと内なるものが出てきてるなと。メロディやサウンドによって掘り起こされたものがあったりしたんでしょうか?

土岐 トオミさんのメロディは有機的なんですけど、サウンドにはさきほども言ったように無機質で硬質な感じがある。だから、コンクリートの壁とか、金属的な重機だったりをパッとイメージしちゃうんです。でも、そういった無機質で客観的でサラッとした言葉ばかりを乗せてしまうと、オシャレにはなるんだろうけど、なんかこう雰囲気モノみたいになっちゃうなと思って(笑)。

--- サウンドの持つメンタリティと乗せる言葉とのバランスということですよね。

土岐 はい。歌詞を書くときはいつも、どういう言葉を乗せたら面白い絵がクッキリ浮かぶだろうかってことを、サウンドとのバランスで考えるんですけど、トオミさんのサウンドには、より生々しい言葉やあまりカッコよくない描写をぶつけても面白いなと思いました。それを受け入れてくれる懐の深さが、トオミさんの音楽にはあるし。

--- なるほど。

土岐 結果、そこまで言う?ってくらいの生々しい言葉が出てきたりもしましたね(笑)。サウンドによって自分でも気づかなかった内面性が掘り起こされたというところはあると思います。
--- 具体的な作業の順番としては、まずトオミさんの曲とサウンドがあるわけですか?

土岐 いえ、2パターンありますね。アレンジがほぼ完成した状態の曲に歌詞をはめていく場合と、私が書いた歌詞にメロディをつけていただく場合と。

--- エッ! 詞先の曲もあるんですか?

土岐 はい。今回は「Black Savanna」と「STRIPE」。あと、「名前」もそうですね。

--- 「名前」はメロディラインからして、今、瞬間的に詞先だろうなと思いました。でも、「STRIPE」が詞先とは!

土岐 あの曲のイントロの英語のフレーズは、あとから思いついたものなんですけど、基本的にトオミさんとやる詞先は、言葉の入れ替えとか、足し引きっていうのがなくて、そのまま曲になります。あまりに完璧に上げてくれるので、魔法使いのようだなと(笑)。

--- まさに! でも、字数的にそんなにピッタリいくってことは、詞先で書くとき、土岐さんご自身の中でも、「Aメロ、Bメロ、大サビ」などと思いながら書いているということですか?

土岐 はい。妄想しながら書いてます(笑)。実際の曲はほとんど書いたことがなくて、バンド時代に1曲、ソロで1曲あるだけなんですね。思いついてもいつもまったく気に入らなくて、まぁちょっと気に入ってるかもというのがその2曲(笑)。ただ、詞を書くときは、こういうリズムで、こういうサウンドで、こういうフィーリングでと、自分なりに架空のメロディを頭の中で鳴らしてる。だから、語数や構成など、整合性はとれてるんです。でも、それはトオミさんには明かさず(笑)。

--- 1曲分、詞を完成させてからお渡しするわけですか?

土岐 そうです。

--- すごくレアな作り方ですよね。

土岐 あ、でも、松本隆さんも自分の中でメロディが鳴ってるそうですよ。先日聞いたラジオでおっしゃってました。余談ですけど(笑)。
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--- 土岐さんの頭で鳴っている「妄想曲」と、トオミさんがつけてきたメロディとのマッチングを、どう感じていますか?

土岐 同じメロディにはもちろん絶対ならないんですけど、「そう! このイメージだったんです」というときも多くて、トオミさんがエスパーに見えたりします(笑)。相性もあるかもしれないけど、やっぱり冷静な洞察力と、千里眼のような感覚で、人の求めているものを読む力がすごいんだなと。それを可能にする引き出しも多いし。

--- 逆に、イメージしていたものとギャップがあることも?

土岐 まったく想像してなかった曲調になることもあります。でも、「こうじゃないんだよな」というガッカリはなくて、裏切られる喜びを感じますね。たぶん、私がトオミさんの無機質なサウンドに人肌の言葉を乗せたくなるのと同じような感じで、トオミさんも私の言葉にどんなメロディを乗せたいかっていうのがいろいろあるんだと思います。意外なコーディネイトが驚きだったり、楽しみだったり、ですね。
--- 「Black Savanna」と「STRIPE」はどちらだったんでしょう?

土岐 「Black Savanna」は、制作期間の後半に作った曲で、事前に「ちょっとR&Bっぽくて、ヒップホップの要素もあって」と話してもいたので、イメージ通りというか、それ以上のものになってうれしかったです。「STRIPE」に関しては、まったくイメージは伝えてなかったんですけど、「コレなんです」というものが上がってきてきました。「名前」は例外で、詞を書いているときに、自分なりのメロディの落としどころがまったくわからなかったんです。

--- 「妄想曲」がまとまっていなかったと?

土岐 はい。語数もあまり定まっていない散文詩みたいな感じで書いていたので、メロディつけづらいだろうなと思っていました。そしたら、「あ、こうきたか!」と。驚きの1曲でしたね。

--- 訥々としたピアノとともに奏でられている「名前」は、本当に美しくて、明鏡止水の世界を思い浮かべました。

土岐 まさにそんな感じです。「川を照らす三日月」がロールシャッシャの絵のように「揺れる バナナの舟」に見える。その静謐な世界をサウンドでも表してくれてますね。

--- 「♪砂に沈む 星座を 拾いにいこう」というところが一筆書きのようなメロディになっていて、ノンブレスで歌ってますよね。

土岐 そうなんです。あれ、苦しかったですよ。仮歌のときはゼイゼイ言ってました(苦笑)。

--- その部分を聴いたとき、「あ、これって詞先かも」と思いました。

土岐 曲先だと、トオミさんもメロディを歌いながら作るから、そう不思議なことにはならないんですよ(笑)。「名前」は、詞先の言葉を生かしてくれようとして、こういうメロディの連なりになったのかなと。なんか面白い歪さがありますよね。

土岐麻子 / Black Savanna

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