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2017年12月1日 更新

ポルノグラフィティ『BUTTERFLY EFFECT』に想う…加速するノンフィクションの力と、「第二世代」をも魅了する真摯なユーザー・フレンドリーさ

2017年11月17日(金)より15thライヴサーキット“BUTTERFLY EFFECT”をスタートしたポルノグラフィティ。彼らが2年2か月振りにリリースした同名のアルバム『BUTTERFLY EFFECT』から感じられた強い輝きとは何だったのか。彼らを継続的に取材してきているライター・藤井美保が掘り下げます。

TEXT:藤井美保
 10月25日にリリースされたポルノグラフィティの11thアルバム『BUTTERFLY EFFECT』。どの曲にも「らしさ」が迷いなくこめられている。キャリアに裏打ちされたワザが奔流となって流れ出たとわかり、痛快さ爽快さが止まらない。歌詞の説得力も含めた音楽的充足感を満タンにして聴き終えることができた。デビュー当時から際立っていた楽曲に寄り添うフィクションにもさらなる磨きがかかっているが、それ以上に、彼ら自身が今言いたいことを綴ったノンフィクションが強い輝きを放つようになっている。ポルノ史上最高傑作、と、こちらも迷うことなく本心で言えるアルバムだ。

ポルノグラフィティ

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 前作『RHINOCEROS』が出たのは2015年夏のことだった。そのタイミングで会う機会を得たとき彼らは、急激に様変わりする音楽業界のなかで感じていることを率直に語った。新藤は自分の書いたシングルで味わった体感をもとに、「狙っても当たらない」という言葉を躊躇なく発しつつ、「だから狙うのはもういい。それより、リスナーとしての自分の嗜好性みたいなものを出せたらと思った」と言い、岡野は、「自分の求めるものと世の中が求めるポルノらしさとの狭間で、制作マインドが刻々と変わっていった」と振り返った。15周年の祝祭をやりきり、制作態勢を一新して臨んだ『RHINOCEROS』は、真に自分たちの船で大海に踏み出した1枚。さまざまな意味で過渡期のアルバムだったわけだ。
 次に向けてのどこか振り切った心境の変化が見えたのは、2016年5月にリリースされた43枚目のシングル「THE DAY」(TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』OP曲)だった。アニメの質感と合致するダークでスピード感が溢れ出たナンバーなのだが、ハッとするのが、「けして明けない夜も 降り続けてやまない雨も このろくでもない世界にはあるんだよ」という言葉。逃げてないと思った。通常のポップソング、それもアニメを観る世代のことを考えたら、「明けない夜はない」、「やまない雨はない」が常套句。でも、世の中は今、誰もが生き残るのに必死だ。「そんなとき、幻想など歌ってられるか!」と啖呵を切るような彼らの歌に、思いきりパンチを喰らった気がしたのだ。エンディングの「明日はどっちだ? THE DAY HAS COME」はとてつもなく好きなフレーズ。生き方の指針として時折心のなかでつぶやいてもいる。

ポルノグラフィティ 『THE DAY』(Short Ver.)

 その「THE DAY」が『BUTTERFLY EFFECT』の1曲目を飾っているのは、偶然ではないだろう。シニカルだけど働く者としての誇りを取り戻したくなる「Working men blues」、「何が正しい? 見えない未来」と岡野が巻き舌で咆哮する「Fade away 」、ミサイルが飛んでくる現実に「ここは誰が望んだ世界か? ピースピース」とパンキッシュにアジる「170828-29」。そこにあるのはどれも、40代の彼らが生きる重みを背負い、堂々とネガ/ポジを行き来して掴んだ言葉だ。ノンフィクションの書き手としての覚悟が伝わる。だから、こちらも釣り合う気迫でそれを掴みたくなる。
 歌詞のみならずメロディメイカーとしての魅力も、堰を切ったように増している。それがまた、作詞、作曲をそれぞれが一人で担うバラードに顕著に見られるのがいい。岡野作の「I believe」は、逆境のなかでも「あなたらしくあれ また風を待とう」と、全肯定で聴き手を抱きしめる。新藤の「夜間飛行」は、まさに漆黒の空を漂うようなドリーミーで美しい世界だ。楽曲に寄り添うフィクションという意味でも珠玉の仕上がりである。この秋、2作目となる小説『ルールズ』を発表した新藤は、言葉の遣い手としてやはり抜きん出たギフトの持ち主と言えるだろう。そして、この曲のギター・ソロは、彼のスキルやマインドのすべてが高みに向かって滲み出た音に思えた。制作という格闘の末に生まれた楽曲、歌詞、サウンド。それらをドンとまとって揺るがない岡野のボーカルの力強さは、「あなたらしくあれ また風を待とう」と歩んできた結果なのだと思えた。
 ご存知の方も多いと思うが、ポルノグラフィティのヒット曲として万人が知る「アポロ」、「サウダージ」、「アゲハ蝶」、「ハネウマライダー」といった曲は、作詞は新藤だが、作曲は、デビューからずっと彼らの可能性を信じてプロデュースしてきたak.hommaこと本間昭光。その庇護を離れ、作詞、作曲を岡野と新藤の二人だけでやり始めたのは、デビュー9年後の2008年のことだった。さまざまに模索するなか、ついてきて離れないヒット曲という亡霊に苛まれることもあっただろう。でも、今のポルノグラフィティには、そんな亡霊さえもトリックorトリートで手なづけてしまう音楽的、人間的余裕が感じられる。「ポルノグラフィティらしさ」は誰が決めるのでもなく、自分たちそのもの。そんな突破した心境で、思うままに音を奏でる彼らが、痛快で爽快なのだ。

岡野昭仁(Vo)

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 2017年11月17日(金)からは、15thライヴサーキット“BUTTERFLY EFFECT”もスタートした。すでに売り出された分はすべてソールドアウト。おそらく新しい観客も増えているはずだ。というのも、今年、ポルノグラフィティは積極的に夏フェスに出演し、多くの若い世代の支持をも得たからだ。たまたまその一つを目にしたが、それはまさに「ポルノ第二世代」の誕生を感じさせるものだった。
 最初多くの20代の観客は、「有名だけどよく知らない」といった様子見の構えだった。が、「アゲハ蝶」が始まった途端「知ってる!」の扉が大きく開き、目の色が変わり始めた。2001年のミリオンセラーであるこの曲は、観客の親の「夢中」だったはず。親の趣味で耳にしてた曲が、「えっ、いいじゃん!」と突如違った価値観を持った。そんな共有感がザーッと何万もの人波を伝わっていくのが見えたとき、本気で鳥肌が立った。様子見をきめこんでいた若い世代が、傍観者から当事者に変わった瞬間に思えたからだ。
 味をしめた彼らは「ポルノ第二世代」となり、親を夢中にさせたポルノグラフィティの魅力を嬉々として自分たちなりに掘っていくことだろう。21世紀に入って音楽を取り巻く環境や業態、聴き方の文化は変わり、万人が知るといったヒット曲は生まれにくくなった。という意味で、ギリギリ20世紀デビューのポルノグラフィティは、マスで「第二世代」を持つことのできる最後の世代と言っていいのかもしれない。プレスリーもビートルズも歌謡曲もGSもフォークも…、そういった「第二世代」によって語り継がれてきた。そんな現象が、今、ポルノグラフィティにも起こりつつあるのだ。『BUTTERFLY EFFECT』のなかには、「グラチャンバレー2017」のテーマ曲となった「キング&クイーン」など、初心者でも心躍らせて聴ける曲がある。ポピュラーとは何かという永遠の課題に向かう真摯なユーザー・フレンドリーさもまた、ポルノグラフィティの変わらぬ魅力。というわけで、若い世代が新作とそのツアーにどうコミットしてくるか、音楽伝播の新たな姿としても注目していたい。

ポルノグラフィティ 『キング&クイーン/Montage』(YouTube ver.)

 最後に、「君の愛読書がケルアックだった件」(作詞、作曲:新藤晴一)でキュンとなってしまったことを告白しておこう。ジャック・ケルアックは50年代の作家だから残念ながらリアルタイムで体験したわけじゃないが、だからこそ、リアルタイムに生きていないことが悔しいほど、ビート・ジェネレーションと呼ばれるあの世代に憧れ、60年代のカウンター・カルチャーにつながったケルアックの『オン・ザ・ロード』に夢中になったりもした。新藤が感じたのはそれと同じではないかもしれないが、「君の愛読書〜」には、先人の放った熱の塊が風を起こし、それが脈々と伝えられてきたことへの彼のリスペクトと、今度はそれを自分が伝えなきゃという衝動が感じられた。それもとびきりのユーザー・フレンドリーさで。
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